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技術論文

床上第1-005号 萩谷川(新町川防潮水門)床上浸水対策特別緊急工事

平成22年度表彰 高知県優良建設工事

岡 泰助大旺新洋株式会社
主任技師 岡 泰助

はじめに

当工事は、既設の新町川防潮水門を撤去・新設する工事である。施工箇所は、高知県土佐市宇佐町宇佐を流れる萩谷川の支川新町川の河口部、宇佐漁港内に位置しており、水門の堤内側を防潮堤も兼ねた主要県道須崎仁ノ線が横断しているため、漁港側に迂回路を確保し、限られたヤード内で施工する工事でした。

1)工事概要

工期
平成20年7月30日〜平成22年3月20日
工事内容
新町川防潮水門
本工事:函渠工 L=19.3m、護岸工(ブロック積)A=17m2
附帯工事:カルバート工 L=20m、撤去復旧工 1式

課題・問題点

1)第三者に対する安全及び環境面での配慮

  • 県道須崎・仁ノ線は一日に 4,000台の車両が通行する宇佐町の基幹道路であります。これに代わる県道迂回路については仮設道路のため、歩道がなく、線形等も道路構造令を満たさない特例値を採用していました。軌跡図にて検討すると、11t車で対向車線に30cm以上はみ出さなければ走行できない構造でした。車両同士・歩行者との接触による第三者災害が懸念されました。
  • 迂回路は、漁港内へ大型土のうを設置する盛土構造であるため、潮の干満や漁船の航跡波により濁りや吸出しが発生する可能性があり、供用開始後陥没などによる第三者災害が懸念されました。

2)緊急時への備え(大雨時の新町川流域の浸水対策・地中障害物)

  • 施工中の排水について、仮設排水管(コルゲートパイプø1500×2列)にて設計されていましたが、出水による満水時は隣接する家屋への影響及び上流側護岸の水位オーバーが懸念されました。
  • 施工前の地元住民への聞き取り調査の結果、仮締切工の施工箇所は旧堤防・護岸があったため、地中には石積み及び転石等の障害物が埋設されている可能性が高く、鋼矢板の施工が不可能になる恐れがありました。

3)限られたスペースを有効に活用する施工計画

  • 当工事では、県道須崎仁ノ線下に埋設されていました直径 300mmの上水道管と通信用光ケーブルを迂回させること無く、道路縦断方向にH型鋼を通し架台を組み、吊下げて保持した状態での施工となっていました。また設計における作業ヤードは、砂質土の地盤を5分勾配で開削して確保する計画でした。遮水矢板の施工の際には9tもの重量物を吊る必要があり、安定した作業ヤードの確保が課題となりました。
  • 県道を横断して掘削するため、作業ヤードに重機を配置すると安全通路の確保が困難でした。

4)塩害の影響を受ける構造物の品質確保

  • 設計における函渠の施工は長辺方向の切梁が障害となり、可とう継ぎ手・縦壁を分割して施工する必要があるため、構造物の品質確保が課題となりました。

対応策・工夫改良点

1)第三者に対する安全及び環境面での配慮

  • 仮設迂回路については、主要県道の迂回路であることや交通量等を考慮し、現道の規格と同じ道路構造令の3種3級規格を満足する構造に変更しました。縦断勾配を考慮して、表層にはギャップアスファルトを採用しました。また、現道と同等の歩道も確保した結果、工事中の第三者災害はありませんでした。
  • 漁港内への盛土については、迂回路の変形への懸念だけではなく、大型土のうの沈下に伴う航路部の地盤隆起・汚濁等、第三者に与える影響が大きすぎるため、海中部のみ桟橋構造へ変更しました。陸上部へ用いる大型土のうについては、現場環境を考慮して耐候性土のうを採用しました。
    また、盛土の土圧による岸壁の変異を監視するため、動態観測を行って不足の事態に備えました。

2)緊急時への備え(大雨時の新町川流域の浸水対策・地中障害物)

  • 通常時はポンプ排水にて対応できる水量でしたが、コルゲートパイプによる仮排水路の計画は、排水能力だけでなく、隣接民家への影響及び現場内作業ヤード、迂回路土被り等の構造的な問題もあったため、大雨時の排水能力を検討し、締切矢板の上下流の天端を打ち下げて異常出水時に締切り内を仮水路として開放し、必要通水断面を確保する方法をとりました。天端高は上流側河川の満水位以下で、且つ海面満潮時に海水が逆流しない高さとしました。またネットワークカメラを設置してリアルタイムの監視を行いました。その結果、常時作業員の安全を確保するとともに、緊急時は場内(締切内)を通水させることにより新町川流域の浸水を防ぐことができました。

  • " 地中障害物については、県道掘削前に堤外側で試掘を行い障害物の確認を行いました。開削による撤去は既設構造物や埋設物へ影響を及ぼすため、困難だと考えられました。検討した結果、BG工法(置換杭工法)による支障物撤去を採用し、矢板の施工を可能にし矢板打込み時の振動、騒音も抑制することができました。

地中障害物撤去状況(BG工法)
地中障害物撤去状況(BG工法)

地中障害物確認状況
地中障害物確認状況

3)限られたスペースを有効に活用する施工計画

  • 遮水矢板施工時の施工スペース・作業半径等を検討し、仮締切内の西側へ作業構台を張出し、増設する事によりクレーンの作業半径を広げ効率が大幅にアップし、安全性も向上しました。
  • 安全通路を確保するため、現場を二分して横断している埋設物吊架台上に手摺を設け安全通路として有効利用しました。

4)塩害の影響を受ける構造物の品質確保

  • 函渠本体品質を確保するため、切梁構造の検討を行いました。
    1. 締切矢板の上下流を打ち下げて洪水対策とすることで、水圧の作用が少なくなり、長辺方向の切梁の設置が不要になりました。その結果、可とう継手が地組できるため、一体化された水密性の高い可とう継手の施工を行うことができました。
      平面図
      平面図
      可とう継手設置状況
      可とう継手設置状況
    2. 底版部打設完了後に埋戻し・盛替えコンクリートを設置して、切梁を撤去しました。その結果、縦壁部の打継目がなくなるとともに、中間杭を早期に撤去できるため、頂版部の箱抜きが不要となり、良好な品質を確保することができました。

おわりに

施工にあたる業者は施工計画時に現場に潜在する問題点を把握し対応策を考え、安全性、経済性、施工性を総合的に分析して施工方法を決定します。施工業者は様々な現場条件をクリアした上で評価されます。

工事が終了した際に発注者、施工業者、設計業者の三者による実施工をもとにした事後分析をすることにより互いの情報、潜在していた問題点を共有できれば、設計の妥当性がおのずと向上されていくのではないかと考えられます。

問題点が多く苦労した工事でしたが、発注者・地元等関係者のご協力により無事故で竣工できたことに誇りを感じております。これからも自己研鑽・新技術の把握等に努め、現場に適した工法を見つけられる技術者を目指していきたいです。

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