当該工事は、県道384号線沿いの高知市布師田地内における、企業立地の促進による本県経済の活性化と雇用機会の拡大等を目的とした高知県と高知市との共同開発による大規模産業団地整備工事であり、施工面積約17haとその膨大な施工量を分譲開始時期までに完成させると共に、大規模土工や多種多様なコンクリート構造物の品質管理も重要となるため、綿密な施工管理計画が要求された。
工事名 | 高知布師田(債)第1 号(仮称)高知布師田団地団地整備工事 |
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主な工事内容 | ・道路土工・河川土工 掘削工:V=310,000m3 盛土工:V=350,000m3 ・擁壁工 L型擁壁H=7.0m ConV=11,400m3 もたれ式擁壁(防災調節池)H=7.0m ConV=4,000m3 ・排水構造物工 側溝工L=11,000m 現場打水路工L=720m ConV=1,600m3 ・舗装工 舗装工A=11,000m2 ・法面工 植生シートA=34,000m2 モルタル吹付A=13,700m2 覆式落石防止網A=2,600m2 ・地すべり対策工 集水井N=3基 |
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(1)土工規模は、総掘削量=305,000m3、総盛土量=353,000m3、総容積量=33,000m3(防災調節池)と広大かつ膨大な施工量であり、また、防災調節池は工事進捗におけるクリティカルパスであったため、合理的な施工順序及び施工方法の立案、大規模土工の作業効率向上による工期短縮が課題となった。
(2)工事期間が長期にわたるため、施工時期に合わせたコンクリート構造物の施工管理は重要項目であり、特に造成地を上下段に分断するL型擁壁は高さ7m、延長300m と巨大かつ長大な重要構造物であり、構造特性上の拘束ひび割れや脱型初期の乾燥収縮ひび割れ抑制が課題となった。また、既設法面には湧水が多く見られ、12段からなる長大法面盛土内へ滞留させない適切な排水対策も課題となった。
(3)当該工事箇所は県内でも有数の希少植物の群生地であり、事前調査業務により21種類もの希少種が確認されたが、その多くは工事によって消失してしまうことから、官民学一体となり希少植物保護に向けた取り組みが非常に重要となった。その中でも防災調節池には多種の希少植物が群生しているうえ、早期段階に着手する必要があったため、迅速な保全方法の検討が要求された。
(1)広大な施工範囲における大規模土工の効率化として、施工体制を確立(土工2 社、構造物5 社)、施工範囲分担を計画した上で、内製化によるICT施工を立案し、次項目を実施した。
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(2)防災調節池の現場打もたれ式擁壁前面型枠4,500m2を全て二次製品パネル化することで、養生・脱型・ケレンの一連作業を省略化し、工程短縮を図った。
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内製化によるICT 施工を実施したことで、施工効率及び施工管理作業効率が格段に向上し、約100日の工程短縮が可能となった。
もたれ式擁壁前面型枠の二次製品パネルは、専用固定治具により角度調整や足場設置も容易に行うことができ、一連作業の省略化と併せて、約90日の工程短縮が可能となった。
(1)造成地を上下段に分断するため土留擁壁として重要な役割を担うL 型擁壁は、構造特性上の拘束ひび割れや、脱型後の乾燥収縮ひび割れ等による品質低下は絶対避けなければならない。その対策として次項目を立案し、実施した。
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(2)造成地南側の既設法面から常時湧水があり、盛土内に滞留することで発生する盛土沈下や法面崩壊等の品質低下対策として、盛土全12段に排水フィルター材を@10mで配置し、地山からの湧水を法面前面排水層まで導水した。
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補強鉄筋によるせん断抵抗力の増強、止水効果の高いスパンシールひび割れ誘発目地による拘束スパンの縮小化、塗布型収縮低減剤による乾燥収縮の抑制と併せて、多機能コンクリート改質剤FD-15はミクロカーボン繊維による全方位プレストレスコンクリート効果やブリージング水やレイタンスの抑制、防錆作用等様々な品質向上効果を発揮する。
L 型擁壁をはじめ全ての重要構造物において、上記ひび割れ抑制対策の相乗効果により、ひび割れ発生は見られなかった。
また、盛土内に配置した排水フィルター材効果により地山からの湧水が盛土内に滞留することなく確実な排水が可能となり、沈下等の品質低下を起こすことなく、高品質な盛土法面を構築できた。
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(1)工事受注と同時期に行われていた調査業務により群生が確認された希少植物21種類、その大半がクリティカルパスとなる防災調節池施工箇所だったため、早期着手のために最善な保全方法を迅速に検討する必要があった。
少しでも多くの種を保全するために、発注者及び牧野植物園職員等の有識者を交え、幾度と検討協議を重ね各種に応じた最善の保全対策を決定した。
防災調節池施工箇所において、まず合同現地調査にて直接希少種にマーキングを行い、種類及び株数の把握を行った。
次に、人力にて一株ずつ丁寧に採取し、群生箇所の土と一緒に育成用ボットへ移植を行った。採取した株は工事完成後の適正箇所へ種に応じた時期に移植する計画となったため、別途保管場所にて月1回の有識者への報告や助言を頂きながら、季節や天候に応じた適切な保管育成を行った。
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(2)株採取後の表土を30〜50cmほどはぎ取り、場内保管を行った。盛土法面完了後の法面に表土を戻し、特注の種子無し植生シートにて法面保護を行った。
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防災調整池施工箇所は掘削開始エリアから順に採取を行うことで、施工と平行して保全業務が実施でき、工事着手の遅れを最小限に留める事ができた。こうした結果により、780株もの希少種を保護することが可能となり、また工事終盤には表土を戻した南側法面に新たに希少種の育成も確認され、最善な保全対策が 施できた。
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今まで経験したことの無い施工規模と多種多様な工種に応じた施工管理、また地域の自然環境保全対策等、様々が課題があり苦労したが、上記取組みを実施した結果、高品質な産業団地を無事工期内に完成させることができました。また、発注者を対象としたICT 施工現場見学会や高校生インターンシップへの助成にも取組み、若手技術者の技術向上や雇用創出にも微力ながら貢献でき嬉しく思います。工事に携わって頂いた 注者の方々や協力会社の皆様、その他大勢の方々にご指導ご支援頂き、ここに感謝申し上げます。
この産業団地が未来の高知県産業発展の礎となり、また数年後には希少植物が芽吹く緑豊かな地域憩いの場所となるよう、心より願います。