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技術論文

清流新荘川における魚道整備のとりくみ 〜魚道を確実に機能させるために〜

令和5年度表彰 高知県優良建設工事施工者表彰

杉本土建株式会 西川 智一郎

杉本土建株式会社
西川 智一郎


1. はじめに

当該事業は、二級河川新荘川の中流部において、河床低下や洗掘により落差が生じた既設床止に魚道を設け、魚類等水生生物の移動に配慮した川づくりを行うものである。
新荘川はアユ釣りやレジャー等でよく利用され、河川環境の維持・改善に対するニーズが高いことから、今回の魚道整備の意義は大きく、確実に魚道を機能させる必要があった。加えて、新荘川は清流として知られることから、施工時の濁水や構造物の景観的な配慮も重要であった。


2. 工事概要

  • 工事名 新荘川 河川改修工事
    施工延長 L=40m
    魚道工 N= 2 基
    護床工 N= 1 式

施工特性

当初設計では大型土嚢340個の作製及び盛土材の土砂を約5km下流の河川敷から採取、搬入し仮設道路を構築する計画となっていた。
また河川内での施工にあたりアユの流下や漁期を考慮した工程計画の作成及び、現場周辺の交通に配慮した施工計画が必要であった。


3−1. 仮設計画の検討による工期短縮と濁水防止の工夫

仮設道路の施工にあたり大型土嚢や土砂の搬入及び搬出時の交通への影響や作業日数の短縮を図るため、仮桟橋への変更を提案した。また土嚢作製や盛土の採取を現場付近の中洲の土砂を使用し土砂運搬作業を最小限に抑え、水替工は右岸側から排水ポンプ(φ400)プレスト管(φ450)により工区外へ排水した。

 


 

効 果

仮桟橋に変更することで仮設道路の設置・撤去に要する土砂の積込・運搬作業を少なくすることにより約25日の工程の短縮が可能となった。排水ポンプ・プレスト管での工区外排水を実施することで全面施工が可能となり仮締切工の設置・撤去の工程を大幅に省略することができ、濁水の抑制にもなり環境に配慮した施工ができた。


3−2. 魚道を確実に機能させるための工夫

写真-11 提案の自然配慮型工法

新設した魚道を機能させるためには、魚道自体が生物にとって遡上可能な流況であることはもちろんのこと、下流から遡上してきた水生生物が魚道の登り口に到達できるよう瀬切れを防止することが前 条件である。
しかしながら、護床工部では水流がブロックの床掘面を伏流し、瀬切れ状態が生じやすい。

対 策

こうした課題を踏まえ、魚道の石材配置やコンクートの成形にあたっては、専門家の技術指導を仰ぎ、魚道自体の機能を確保した。護床工の施工においては、ブロックの隙間の間詰を十分に行いブロックの上方に水面を形成させる必要があるが、今回使用した護床ブロックは、その構造と据付時の噛み合わせ方法から、安定性に優れる反面、隙間に土砂を充填しにくい。この対策として、コンクートの締固めに用いる高周波バイブレーターを使用して土砂の充填を行い、入念な品質確保に努めた。

 

効 果

間詰作業を時間をかけ丁寧に施工することにより河床の洗掘や吸出しは見受けられず、狙い通り護床ブロックの上方に水面が形成され、下流から遡上してきた魚類等が魚道の登り口まで到達できる状況を形成することに成功した。

 

3−3. 水じょく池(巨石)により護床ブロックを目立たなくする工夫

水じょく池工の施工においても同様の方法で巨石の間隙に土砂を充填して伏流による瀬切れを防止しつつ、床止の落差による流水を減勢する機能を発揮させることができた。加えて、水じょく池工により護床ブロックが水没することで人工物による景観的なインパクトを緩和するなど、清流新荘川に相応しい出来映えとなった。

 

 

4 . おわりに

こうした工夫と努力により、施工直後からアユや甲殻類等の水生生物が魚道を利用していることが確認された。漁協等の関係者からも「アユがよく遡上しており、床止の直下にアユが滞留しなくなった」との連絡も頂いている。
また、魚道工の石材据付やコンクート打設にあたっては、土木事務所の職員を対象にした研修会を開催し、職員10名が2日間に渡って実際に施工を行うなど、若手技術者の技術の向上を目的とした取り組みも行うことができ、発注者や指導してくださった先生方、協力会社の皆さんのおかげで自然と調和した魚道を完成させることができました。