令和元年7月豪雨により発生した斜面崩壊は、国道より高さ225 m上部から細長い形状で始まり、急斜面であることに加え土砂や直径50pを超える風倒木が乱雑に堆積していたため、それらの除去は難易度が高く危険が伴う。さらに斜面に接する国道195号は、高知県中央部と徳島県南部を結ぶ主要道路で、物流や地域観光、地域住民の生活道に利用される重要な路線であるため、除去時の国道への飛散、飛来防止など対策が必要とされた。また、高所作業場へ材料の供給や、作業者の昇降手段についても対策が必要とされた現場であった。
土砂V=2760m3、風倒木 推定500本 |
山腹工 | 0 . 6ha |
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土留工(生コン) | N= 2 基, L=25.5m |
のり枠工(簡易法枠) | A=5,166.3m2 |
モルタル吹付工 | A=380.3m2 |
植生基材吹付工 | A=235.6m2 |
仮設工 | 1 式 |
急峻・狭隘な限られた場所で、混在作業が多く危険度が高い崩土・風倒木の除去作業において、接触災害など作業員に及ぶ危険を軽減する対策として、高機能装置による機械化・無人化となる対策を実施した。
風倒木の処理作業では、崩土に埋もれた木材が大半であったため、掘削、掴み、切断を一つのアタッチメントで行うことが出来るフェラーバンチャザウルスロボを装着し、崩土に埋まった倒木の掘り起し、玉切り、集材、積込みの一連の流れ作業を1台のバックホウで行った。
掘り起し(バケット機能) |
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集材(掴み機能・グラップル) |
《フェラーバンチャザウルスロボの効果》
高所斜面で行う整形作業の安全性の向上と人力の負担を軽減させるため、セーフティークライマー工法(高所法面掘削機)により法面整形工を実施した。
機体(小型バックホウ)をウィンチのワイヤーで吊り、ウィンチと重機をリモコンにより遠隔操作で無人掘削を行った。
自由自在に移動 |
無人掘削 |
リモコン操作 |
《セーフティークライマー工法の効果》
機械施工が困難な高所斜面での整形工に高所法面掘削機を用いることで、人力作業を無くし、機械施工による効率化によって、作業日数の1/2短縮(※)が図れた。
※人力作業(予定)日数50日⇒機械作業(実稼働)日数25日
整形作業で発生する落石や土砂の集積を目的とした仮設防護柵を中腹(国道からH=70m)に設置した。
支柱は斜面で自立できる構造体で土留材には斜面内の風倒木を利用した。
《仮設防護柵の効果》
高所で発生し勢いを増しながら転がり落ちる落石の散乱を防ぎ、国道の安全を確保した。多量に発生する土砂の集積を可能とし、後続に行う土留工の位置に合わせて土砂を集積し、作業ヤードを設け作業床を確保したことにより、安全で効率良い作業が実施できた。
ケーブルクレーンの設置について、当初設計では対岸から国道上空を架線が横断する計画であった。しかし、国道の利用者からすると、上空に仮設物があり間近で吊り荷が動けば不安を与えてしまうため、通行車両に影響しない対策が必要と考えた。また、使用頻度の高いケーブルクレーンの安全性と作業性を考慮した架設方法を実施した。
◇対策
・仮設防護柵の内側へ架設を実施
・主索線に地上高を持たせ、主索の張力に対して捻じれや屈折に耐える構造の門型支柱を 設置
・仮設防護柵に沿った位置に、グラウンドアンカーの施工による主索アンカーを垂直に設置
門型支柱の構造規格 | 支柱材・受桁・サポート材・・・H鋼350型 |
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主索アンカーの構造規格 | アンカー材・・・ゲビンデスターブ(D26)L=10.00m |
《門型支柱式ケーブルクレーンの効果》
当初設計 | 50日間の時間規制が必要 |
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実施方法 | 時間規制が不要 50日間の規制解除 |
1回の巻き上げ下げ時間が4分から1分となり3分短縮
1日当り30回の稼働で90分短縮
実作業時間の短縮
※運搬時間を短縮し生コン打設の品質を確保
作業能率:当初比の1.3倍/日
当該工事のモルタル吹付では、他に類を見ない厳しい現場条件(高低差225 m)であったため、施工性と品質の確保が重要となった。
《現場条件による問題点》
・通常吹付工法の原則範囲(高低差45 m、ホース延長100m程度)を大幅に超える位置への吹付作業の施工性
・高所への吹付プラントの設置が困難
・仮設防護柵に沿った位置に、グラウンドアンカーの施工による主索アンカーを垂直に設置
◇対策
問題点を解消する特殊吹付工法として、セパレートショット工法(乾式吹付)を実施した。
【セパレートショット工法説明図】
・長距離、高揚程の圧送を可能にする高圧力対応の吹付機械を使用。(通常吹付の2倍の圧力で圧送)使用する吹付機械は自動操作で行うため、人為的誤差が発生しにくい。
・通常吹付工法の湿式吹付と違い、細骨材とセメントミルクを個々に圧送する乾式吹付は、吹付け先端の手前で混合して吹付けるため材料分離が起こりづらく品質の低下防止に有効であった。
・モルタル材の圧送に比べ、比重が軽く抵抗が少ない細骨材を圧送することにより、より遠く、より高く送ることが可能となる。また、セメントミルクの圧送は中継することにより圧送範囲を広げることができる。
《効果》
施工可能範囲 | 通常工法 | 実施工法 | 比較 |
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直高(高低差) | 45m | 225m | 揚程能力5.0倍 |
ホース延長 | 100m | 400m | 圧送能力4.0倍 |
本工事では上部作業場への移動手段が課題となった。現場を囲む山林は急斜面で倒木や落石が多く、安全な作業通路の設置が困難であることに加え、徒歩による移動は現場の高低差を考えると作業者の負担が大きいことから、対策として現場外側に乗用モノレールとプラットホームを設置した。
《効果》
モノレール( 5 人乗り)L=380m |
プラットホーム( 5 箇所) |
工事が始まった当初は過酷な現場条件を目の当たりにし、幾度となく現場を下見する度にどのように進めていけば良いか不安に思う日々の連続でしたが、発注者や協力会社、作業員の方からのさまざまな意見や提案を聞きながら、先に述べた対策を講じることで一つ一つ課題を解決し、工事が進むにつれて不安が自信に変わりました。
今回の現場で得られた知識や経験は今後の現場に活かし、新技術にも積極的に取り組んでいきたいと思います。最後にこの紙面をお借りしまして、地元と発注者の皆様、本件に協力頂いた皆様に感謝を申し上げます。