当該工事は、高知県安芸市伊尾木に位置する竜王池の改修工事である。竜王池は高知県東山森林公園内にあり、その貯水量は60,000m2を超え、安芸市岡地区12.1ha を灌漑する大規模な農業用ため池である。一方で、近年起こりうる南海トラフ大地震や台風、豪雨によりため池堤体が決壊した場合には農地、農業用施設だけでなく家屋や公共施設等に甚大な被害を受けることが懸念されていた。こうした被害を防止するため、竜王池の改修及び取水設備等の整備を行うもので地元住民にとって重大なものであり、緊急性の伴う工事となっ ている。
また、竜王池は近年安芸市の観光スポットである「伊尾木洞」と繋がっており、伊尾木洞の環境保全や観光客に対しての配慮も工事をするうえで重要な課題であった。
堤高 | H=14.9m |
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堤長 | L =46.62m |
洪水吐(越流堰式) | B=7.2m L=57.0m |
底樋 | Φ800 L=72.4m (内、推進工 L=46.17m) |
取水施設工 | 1.0式(斜樋工含む) |
工事用道路 | 1.0式 |
仮設用水 | 1.0式 |
工事概要は上記のとおりである。本工事において、工事用道路は非常に重要な部分であり、本体工である 堤体盛土の品質だけでなく工事全体を左右するため綿密な計画が必要不可欠である。また、堤体掘削におけ る複雑な掘削形状への対応、降雨時の対策、伊尾木洞への配慮、観光客への対応等が必要であった。
図− 1 受益地及び災害時被災想定地域 |
受益地及び災害時の被災想定地域は図-1のようになっており、家屋や学校、公共施設、店舗まで被害が及ぶ。また、国道55号線も範囲内となっている。
竜王池の現状としては、築造されて100年を超えていることから堤体の老朽化や漏水、取水設備の機能不全、洪水吐の断面が不足していることなどが挙げられる。
当初の計画では、進入路が3.0m程度と狭く見通しも悪いため、通行量はさほど無いものの第3者災害等も懸念された。また、急勾配(15%程度)での盛土施工となるため、施工性の悪さや土砂運搬時の安全性の問題もあった。さらに、旧底樋が経年劣化により使用できないため、降雨の度に排水して盛土をする事になり工期の圧迫が予想できた。このため、工事用道路の計画変更が必要であった。
このことから、工事用道路の設計、施工計画を作成しルート変更を立案した。変更案は管理道として使用されていた部分を使用して切土、盛土のバランスを出来るだけ考慮し、かつ工事完成後は竜王池の管理用道路として使用できるように計画した。
当初の工事用道路の進入部 |
工事用道路平面図(当初) |
盛土施工箇所 |
工事用道路平面図(変更) |
工事用道路の施工は困難の連続であった。管理用道路の切土部についてはスムーズに行えたが、池内部の盛土部分については、堆積した泥土の処理(約5,500m2。当初も想定されていた数量よりはるかに多かった)や、降雨による排水対策は8 吋の排水ポンプ3台で排水したが、10o/h程度の雨が降ると翌日には池が満水となるため、作業が再開するまでは10日程度の排水を要し、作業が進まない日々が続いた。泥土処理に関しては発注者と協議を行い改良処理後、場外へ運搬した。盛土作業は伊尾木洞に影響が出ないよう排水量を調整して作業を行い工事用道路は完成した。
降雨後の竜王池 |
管理用道路部は完成後もそのまま使用している |
堤体盛土はため池工事において最も重要なものである。しかし、竜王池には常時水が途切れない谷が2箇所ある。さらに大雨(10o/h程度)が降ると池が満水状態になるため盛土の品質を確保するのが困難となる。そこで盛土施工箇所をドライな状態にするため、洪水吐を先行施工し、盛土施工箇所に水が流れないように洪水吐に排水するための雨水対策土堤を計画した。これによって降雨による作業ロスを大幅に軽減できた(土堤が無ければ50日程度のロスが発生していた)。
洪水吐越流部より高くした土堤 降雨時の排水計画 |
降雨時の土堤効果 |
堤体掘削は二次元図面では表現できないような複雑な形状をしていた。そこでICT技術の活用により、3次元データで表現し「見える化」によって作業者に確認してもらうことができた。また、3次元データをIC 建機に入力して作業を行った。使用したバックホウは0.25m2で、マシンコントロール方式での制御により複雑な形状にもかかわらず掘削や遮水シートの出来形不足も無かった。また、ICT施工を行うことによって測量や丁張作業で発生する機械の作業ロスを無くし、工程の短縮(30日)もできた。
標準断面図 |
3Dデータによる掘削形状 |
平面図 |
丁張レスによる段切り作業 |
堤体盛土の品質要求は道路盛土等と比べると難易度が高い。そこで確実な品質を確保するため、盛土工にもICT技術を活用した。試験盛土を行いRI機器での締固め度を確認し転圧回数を決定した。施工管理は1層ごとの標高高さをICT用バックホウにプログラムして所定の巻出厚さを管理(バックホウの爪先で標高高さや位置情報が分かるようにしていた)し、転圧はコンバインドローラに搭載した転圧システムモニタの色の確認により転圧の不備を無くし、さらに毎層ごとRI機器で締固め度を確認した。
試験盛土 |
盛土作業状況
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コンバインドローラのモニタ |
RI機器による確認 |
バックホウのモニタ
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締固め回数分布図 |
伊尾木洞の環境保全として、水位と濁り具合の定期点検を行うとともに濁水対策は濁水下流堰にバイオログフィルターの設置を行い濁水処理を行った。また、現場の排水ポンプカゴにもヤシ繊維マットを取り付け、濁りを軽減した。排水による水位の上昇については排水ポンプの稼働台数を減らすなど随時調整を行った。さらに下流堰にて分流させるなどの調整も行った。
観光客への配慮としては安芸市観光協会と連携し、観光の予定日、人数等を把握して対策に務めた。また、地域貢献として伊尾木洞観光の窓口にもなっている伊尾木公民館には雨靴の贈呈や雨靴貸出のお知らせ看板の設置を行い、伊尾木洞内については通路整備を行った。観光客が伊尾木洞を通過し現場に訪れた際には作業をストップし誘導するなど安全に観光できるよう配慮した。
伊尾木洞の定期点検 |
バイオログフィルター設置状況
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ポンプカゴにヤシマット設置 |
堰分流により流量の調整 |
伊尾木洞の通路整備
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観光客の誘導 |
完成までに2年以上を要した工事となり、雨水対策には非常に頭を悩ます工事であったが発注者、関係機関、地元の方々の協力及び指導のおかげで無事に無事故・無災害で完成することができた。また、完成時には地元の方々に喜んでいただいたことや、伊尾木洞観光客からのクレーム等が無かったことが現場を担当した者としては良かったと思う。今回の工事にて得た知識や経験を次回以降の現場に活かすとともにより良い工事を目指していきたい。