本工事は平成26年8月及び平成27年7月に発生した豪雨に起因する、県道高知本山線の道路災害復旧工事である。現地においては道路法面施設の被災や地山の亀裂が複数確認されており、切戸法面7段、総掘削高さ55mに及ぶ大規模な長大法面工事となった(図1)
県道高知本山線は、県民の生活道としてはもちろんのこと、県内事業者も多数利用する主要県道に位置づけられており、その交通量は時間帯を問わず多いが、工事箇所の前後は急勾配かつカーブが連続する区間となっていた。また、現道は仮設防護柵が設置され、信号機による24時間片側交互通行を約2年半実施しており、早期復旧が望まれていた。
これらの状況を踏まえ、
@ 崩壊履歴があり急勾配で軟弱な地盤での大規模な掘削作業の実施
A 掘削した大量の土砂を取り扱う作業ヤードの不足
B 一般車両に対する通行規制の実施
の三点を重要な現地の施工特性として捉え、工事に臨んだ。
図1 工事概要 |
前述した施工特性を踏まえて抽出した課題を図2にしめすとともに、各課題に対応して実施した対策を記す。
図2 施工特性による課題 |
施工プロセスの簡素化による施工性の向上と地形条件の克服を図るため、ICT施工を実施し、以下の対策を行った。
図3 レーザースキャナー測量 |
当社はICT施工について従前から先進的に取り組んできた経緯があり、これまで作業員に大きな負担を強いていた準備工における測量作業等の生産性向上を実現してきた。本現場は急勾配な斜面であり、落石や表層崩壊の二次災害が懸念されたため、施工に際しては伐開を最小限に抑えた除草程度の作業で地形データが取得できるレーザースキャナー測量を採用した(図3)。
これにより、従来の「単点測量」が回避され短時間で大量のデータが取得できる「面的測最」が可能となり、危険斜面における作業員の大幅な負担軽減が実現した。また、伐開作業が最小限となったことで、残存木を仮設落石防護柵の支柱として利用できることになり、切土の3分割施工が安全かつスムーズに進捗した。
通常、法切工事の作業難易度は現地の地形条件に左右される。本現場は連続したカーブ線形で形成されていたことから、切士法面もそれに追随して複雑な仕上がり形状が予見された。そこで、この条件下で25,000m3を超過する土工作業を精密かつ安全に進めていくため、切土法面完成形の3次元設計データを作成したうえで(図4)、ICT建設機械(MGバックホウ)を導入した。また、軟岩部と小段の出来形管理にレーザースキャナー測量を採用することで面的な管理が実現し、作業員の手待ちを解消して土工作業における精度向上と生産性の向上を図った。
図4 2次元(左)及び3次元設計データ(右) |
さらに、線形の3次元データ化によって容易に完成形がイメージできたうえに、一部の小段勾配が77%の異常値で設計されていることを把握でき、事前の変更協議により、工事の一時中断が回避できた。また、ICT建機とレーザースキャナー測量の導入により丁張設置作業や測量作業における労力が削減でき、約50日の工期短縮が実現した。
図5 構造物の完成イメージ(3次元モデル) |
ICTの導入による無丁張施工の実現、及びより精度の高い工事目的物の完成を達成するために、現場の3次元モデルを作成することで完成イメージを可視化し、作業所内での共有を図った(図5)。
これにより現場の「見える化」の推進につながり、作業員間で切士完成イメージの共有が進んだとともに、小段ごとの小運搬経路の検討資料をはじめ、工事だよりや地元説明資料、計画変更時の補助的資料として活用した。
本現場では、表層崩壊や既設法枠の変状が確認されていたことから、作業員や下方を通行する一般車両の安全を確保するために、地山の挙動を監視する「ばらまき型」の傾斜計(5台)を設置した(図6)。
観測機器は士工作業の進捗にともない段階的に移動させ、傾斜角度2度以上の傾きで回転灯付きのサイレンが連動して迅速に危険を察知できる体制を整えた。また、観測データは携帯電話や現場事務所のパソコンに自動的に送信されるよう設定し、監視体制の強化を図った。
図6 「ばらまき型」傾斜計(掘削作業の進捗に合わせて移動・再設置) |
図7 最下段部の大型土のう設置状況 |
現場内は同時に複数の重機が稼働するため、重機と作業員の接触事故を未然に防ぐ接近警報装置を導入した。タグを携帯した作業員が重機に近づくと、ブザー付回転灯が点灯してオペレーターに即時に知らせるシステムとなっており、本工事においては重機との接触事故もなく、安全に施工することができた。
また、切土作業の最終段階となる法面最下段部の施工は県逍に近接して行うことから、安全な作業スペースを確保する必要があった。このため、道路上の既存の仮設防護柵と山留擁壁の間に大型士のうを設置し、仮設防護柵への土圧軽減を図ることで、重機械の作業スペースを確保した(図7)。これにより、重機スペースが確保でき、仮設道路から進入が困難だった1〜3段目までの掘削・小運搬が円滑かつ安全に行えた。
さらに、危険箇所での土工作業や法面作業が長期間にわたるため、作業員の安全意識向上とマンネリ化防止を目的として、VR(Virtual Reality 仮想現実)による事故疑似体験や安全パトロールの工夫を行った。
図8 落石防護ネット(仮設防護柵上部) 図9 予告信号機及び電光掲示板 |
道路上で法面工事を実施するにあたっては、下方への落石対策が重要となる。本現場には既設の仮設防護柵が設置されていたが、高さ55mに及ぶ長大法面に対して、機能的、視覚的に安心感を与えられる高さではなかったため、金網、メッシュシート等を二段構えで追加設置して高所からの落石にも対応した(図8)。これにより下方道路車道部を覆うことができ、全工事期間を通して一般車両など第三者の安全確保ができた。
また、本工事中は、一般車両に片側交互通行制限を強いることになったが、工事箇所付近の道路線形はカーブが連続しており、見通しが悪いうえに急勾配であったことから、停止位置の手前に予告信号機と電光掲示板を設置し、運転手に対して注意を促した(図9)。これにより、カーブ手前で待機車両の有無が確認できるとともに徐行を促すことにつながり、一般車両が安全に通行することができた。
加えて、工事の最終段階となる仮設防護柵の撤去には作業スペースとして現道の幅員が必要であり、防護柵の溶接切断作業など一般車両への影響が懸念された。このため、撤去作業は交通量の多い日中を回避して夜間に実施し、一般車両に影響を及ぽすことなく、作業員の安全を確保して無事故で工事が完了できた。
本工事は、発注者である高知県高知士木事務所をはじめとする工事関係者、ならびに地元住民の皆様のご協力により、無事完了することができました。
私は、今後も常に現地の自然・地形条件と向き合いながらこれまで培った経験と知識を活かすとともにICT等の新技術を活用し、技術者として自己研鑽に励みたいと思います。