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技術論文

国道197号 社会資本整備総合交付金(新野越トンネル)工事について

令和元年度高知県優良建設工事施工者表彰

轟・田邊・杉本特定建設工事共同企業体 福田 泰水


1.はじめに

国道197 号は、高知県高知市を起点に高知県須崎市・愛媛県大洲市を経て大分県大分市に至る、供用実延長223qの主要幹線道路である。国道197号のうち高岡郡津野町から高岡郡梼原町との境界付近は野越バイパス計画区間であり、その区間でも現道の狭小区間、また、冬季には積雪や凍結による大型車の接触やスリップによる立ち往生が頻繁に起こっている区間の対策として今回のトンネル計画・施工となった。

図-1 野越バイパス区間位置図


2.工事概要

新野越トンネルは国道197 号のうち野越バイパス工事計画区間の山間部で狭小な区間の一区画工事であり、トンネル延長796m の2 車線道路トンネルである。このトンネルの北側には仏像構造線が存在しており、新野越トンネルは南秩父帯と四万十帯を分けるラインを斜交するように存在している。リニアメントも同様に 斜交しておりこの付近では湧水量も多く、内空変位も発生した。また仏像構造線の影響を受けてローモンタイトを多く含有していた。明かり部8%勾配から掘削側(津野町側)より47m で勾配は上り4.09%であり終点側まで同じであった。平成28年1月4日に着工し、平成29年5月29日に本貫通、平成29年11月17日に竣工した。図- 2にトンネル付近のリニアメント及び南秩父帯と四万十帯のライン図を示す。

図- 2 新野越トンネル付近のリニアメントと四万十帯との境界


3.リニアメント斜交箇所の切羽と内空変位

写- 1 鏡崩落

写- 2 縫い返し

起点側坑口から255m 掘削した付近から322mの間に、ローモンタイトを多く含み粘土化した砂岩が多く出現し始めた。この間は恒常湧水も多く切羽鏡の崩落や内空変位増大により断面不足となったため、縫い返しを実施した。しかしDRISS 前方探査による前方地山強度調査によるリスク対策と削孔穴からの前方水抜き効果により大規模な崩落を抑制できたと考えている。


4.セカンドオピニオン(設計の補助的再調査)によるリニアメントと断層破砕帯の予測と結果

地形図や弾性波速度、そして現地調査により断層破砕帯の予測を実施した。F 1 〜F10 までの断層帯を予 測したが、特に大きな影響があったのはF 4 (図- 3 )断層箇所L=67.0m区間であった。ここは内空変位や恒 常湧水の増大、鏡の崩落、ローモンタイトによるスレーキング等、様々な問題が発生した。

図- 4 設計(左側)と実施(右側)との対比


5.砂岩でもスレーキング

発生した箇所の地層は四万十帯の新土居層群、砂岩優勢の砂岩・頁岩互層であった。砂岩にはローモンタイトの細脈が含まれていた。また500 m北方には仏像構造線が東西に存在しており、ここでは砂岩・頁岩ともにスレーキングが顕著であった。この原因は岩石中に含まれる多数の微細な亀裂とそれらの中に含まれるローモンタイトの存在によるものと考えられた。このことから内空変位の抑制とスレーキング対策としてインバートを施工することにした。

図- 5 スレーキング水浸時間

写- 5 スレーキング試験経過写真


6.履工コンクリートひび割れ抑制対策

この地域における冬季温度の環境や、骨材の長さ変化率を考慮したコンクリートへの対策が必要と考えた。問題点をフロー図(図- 6 )に抽出して対策を検討した。

図- 6 ひび割れ抑制対策フロー図

図- 7 現地骨材長さ変化率


6 - 1 . フライアッシュB種(ファイナッシュT種)の効果(添加率15%を実施)

図- 8 乾燥収縮減少効果

図- 9 水和熱減少効果

6 - 2 . 保水養生テープ
外気の平均気温は18.3℃、平均湿度は89.7%と高めであったが更に湿度変化は46.0%から99.0%であり、最大で53.0%の外気湿度差を確認した。しかし保水養生テープ効果としてコンクリート表面の平均温度が18.2℃であったが、保水テープ内の平均湿度は99.0%、最小湿度は96.0%とテープ養生による安定した保湿効果を確認した。

写- 6 湿度計・温度計

写- 7 保水養生テープ


図-10 保水テープ試験結果

写- 8 遮蔽バルーン

6 - 3 . 遮蔽バルーン

トンネル坑内の温度を一定に保つため、遮蔽バルーンを両坑口に設置した。このことで夏季は吹き抜けによる乾燥収縮の抑制、冬季は遮蔽効果で坑内温度が15℃を下回ることはなかった。

写- 8 遮蔽バルーン

6 - 4 . ひび割れ対策効果による確認

目視や打音検査は必須であるが、更にイーグル(多機能型道路性状測定車)を用いてひび割れ有無の確認を行ったが、ひび割れの発生はなかった。


7.生産性向上を目指したトンネル現場への取組

トンネルイメージは汚い、暗い、狭い、ぬかるむ、路盤が汚い等であったが、それらを全国に先駆けて坑 外、坑内環境改善への取組を実施し、坑外、坑内環境の改善に取り組むことで生産性の向上や見える化に繋 がっていった。

写-10 緑のカーテン

写-11 冷凍庫・アイスクリン

7 - 1 . 休憩設備への取組

休憩所にはゴーヤによる緑のカーテンと冷凍庫を設置 し、アイスクリンを自由に食べていいようにし、簡易トイ レにはスポットクーラーを設置して、熱中症対策をした

写-12 全舗装

写-13 機械式タイヤ洗い機

7 - 2 . 坑外ずり置場までの取組

坑内から坑外ずり置場と土捨て場までの粉塵やタイヤ付 着泥、降雨時の路面排水を処理するために全面簡易舗装を 行い、郊外搬出対策は機械式タイヤ洗い機を設置した。

図-11 照度(ルクス)

7 - 3 . 坑内を明るくする取組

切羽を明るくするため、メタルハライドを採用し3灯式の移動式照明とした。坑内はエコルミナスを8m間隔で設置し作業灯にLED30wを30m毎に設置して定められた照度(ルクス)値より2 〜3倍の明るさとした。また開口部や通路、カーブ等の補助照明にLEDやバルーンを活用した。

写-14 坑内照明

写-15 路盤整備

7 - 4 . 坑内路盤整備への取組

坑内は革靴で歩けることを目指した。常に路盤整備 を行ったあと、4 t ローラーで転圧し、排水管やオー プン仮排水路で湧水処理も行って綺麗にした。

写-16 吊り込み式

写-17 ロックボトルライン

写-18 浮造り


8.おわりに

本工事は北方に仏像構造線が存在し、この地層はあまり知られていなく、今回のトンネル掘削において様々な問題が発生した。ローモンタイトの影響により内空変位の増大や、鏡の崩落、多量の恒常湧水等があったが、必要最低限の補助工法でこれらを克服できたと考えている。また、全国のトンネル現場に先駆けて坑外・坑内環境の改善にむけた取組を行い見える化を目指した結果、生産性の向上に繋がった。
最後に多大なるご指導を頂いた須崎土木事務所並びに梼原町、津野町、地元住民の方々や関係各位の皆様に、紙面をお借りして心から御礼申し上げます。