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技術論文

災関地すべり 第903-1号 西梶ケ内災害関連緊急地すべり防止工事 について

平成28年度高知県優良建設工事施工者表彰

株式会社晃立 土木部 岡田 孝


1.工事の目的及び施工と施工特性

西梶ケ内地区は、従前より地すべり地形による微量の変動が観測されていたが、平成26年の台風11・12号による集中豪雨で地すべり活動が活発になり、宅地の隆起や道路の崩壊が発生し地域の皆様が孤立する状態となったため、集落唯一の狭小な生活道路を使用して「集水井」や「長尺アンカー工」などの「災害関連緊急地すべり防止工事」の施工により、地域の皆様の安全・安心を確保するものです。


現場内の宅地が隆起

台風11・12号の影響で生活道路が寸断

2. 工事の課題

1.点在する集落の唯一の生活道路を使用しての工事であるため、「地域の皆様との協調」と緊急車両を含めた「施工時の安全対策」

2.実工期8ヶ月間・工事費4億円強の施工での大型車両が通行できない狭小幅員を施工ヤードとして使用するため、材料搬入を含めた「工程管理」と繁忙期の「安全管理」

3.脆弱な地質と多数の湧水箇所での適切な、「崩壊の防止対策」

4.狭小で急峻な地形に合した工夫については、「現場に即した工夫」と「出来形・品質精度を向上させるための工夫」

1-1 地域の皆様との調和

着手に先立ち、発注者及び施工業者で施工範囲内の地権者と工事内容等の説明会を開催しました。また、工事の節目毎に個別訪問し工事の状況や今後の予定等を説明し、理解と協力をお願いしました。




1-2 施工時の安全対策

既設町道は幅員が狭く脆弱な路側による一般車両と工事用車両の離合箇所が無 かったため、道路補強や拡幅を施工し地域の皆様の通行による安全・安心を確保 しました。 幅員が欠損(幅2.4m)した箇所では、路側に重力式コンクリート擁壁を構 築すると共にコンクリート舗装を施工して、4mの幅員を確保しました。 また、町道を工事として使用するため、地域の皆様や一般車輌に配慮した運転 を心掛ける様に「運行ルールマップ」を作成し、新規入場者教育・朝礼・安全教 育等で作業員全員に周知しました。


この様な結果、地域の皆様とのコミニュケーションが取れ良好な関係が、工事の始まりから終わりまで「工事に対する信頼度」が得られ順調に工事の進捗が図られました。

2-1 工程管理

この工事の最大の課題である。8ヶ月間で4億円強の工事を完成させる事でした。
受注後のボーリング調査結果より、集水井・アンカーの施工位置が変更となり架空線や支障木等が発生し、その処理や残土場準備の5ヶ月間を要し、メインの集水井・アンカー工施工が10〜2月に集中する見込みとなりました。
そのため、ボーリングマシーン3台の稼働率をアップすると共に1日の作業終了を削孔完了を基本とし、停滞箇所は他のマシーンで補うなど毎日の工程会議による「ロスゼロ」を目指しました。
その結果、11〜1月までの3ヶ月間で進捗率61.4%(金額換算で2億7千万弱、1ヵ月8千万以上)を達成できなした。

2-2 安全管理

繁忙期に発生しがちな労働災害を防止するため、安全パトロールを月に4回実施し労働災害の防止に努めました。その結果、災害ゼロが達成できました。


平成27年9月10日(施工中)

平成28年3月28日(完成)

3.崩壊の防止対策


 

3-1 町道の崩壊防止対策

アンカー工施工時に唯一の生活道路である町道が変状しため以下の対策を実施しました。


対策-1
路側ブロック法面変状を抑制するため、路側ブロック法面に「鉄筋挿入工」を実施しました。

対策-2
路面は1次施工でコンクリート舗装を施工し、完成前に2次施工としてアスファレト舗装を実施しました。

3-2 軟弱な地質へ湧水が多量発生し掘削時に崩壊が発生

3-2-1 集水井進入路が崩壊

粘土層に湧水が浸透し溶け出す様に崩壊が発生し、周辺には電力支柱や民家があったため、「押え盛土工」を実施しました。


3-2-2 アンカー工背面法面の崩壊

土質は脆弱で地山が法長2m程度の自立ができず湧水により崩壊が頻発し、近くに民家があったため以下の対策を実施しました。

対策-1
崩壊の大きな要因である湧水を排除する目的で「ボーリング暗渠工」 を実施。

対策-2
アンカー背面形状を確保するため、「背面調整コンクリート」をモルタル吹付に より実施。

4-1 現場に即した工夫


4-1-1 アンカー打設角度の問題と町道の離合箇所

アンカー工の設置角度が地形的にざぶとんわくで対処できないほど鋭角であるため、現場内の「間詰コンクリート」を施工しました。 また、町道は幅員が狭く離合できる場所が無かったので「間詰コンクリ ート上のスペース」を使用し待避所を設けました。待避所は地域の皆様に感謝して頂きました。


4-1-2 ざぶとんわくの工夫

ざぶとんわくの足元に「均しコンクリート」を設ける事により、組立・吹付時間の短縮や吹付の難易度の低減を図りました。 また、足元から吹付ができた事により「簡素化」「リバ ウンド材の低減」も可能となりました。


4-1-3 現場周辺の機能復旧

アンカー工を一連に施工した事により、既設歩道が寸断されたため、「床板階段」を提案し施工しました。
歩道は高齢者が利用する事から、施工スペースや高低差及び地すべり活動によるアンカーの再緊張等を考慮した構造としました。
地域の皆様からは既存以上の機能が発揮され「利便性が向上した」 と褒めて頂きました。


4-1-4 スムーズな排水処理

地すべり工事において不可欠な要素である排水構造について、現地に即した構造を提案し施工しました。
降雨水の排水をスムーズにするため、既設管渠を表面水も集積できる横断溝としました。
アンカー工の周辺から湧水が常時発生していたので、足元に側溝を設けてスムーズに排水させました。


4-2 出来形・品質精度を向上させるための工夫

4-2-1 集水井の出来形制度向上

狭小断面(直径3.5m)である集水井内の集水ボーリングの施工精度を向上させる目的で、専用 の「定規」を作成して施工しました。 その結果、規格値の20%以内の精度で施工する事ができました。

4-2-2 アンカー受圧板の品質向上

アンカーの緊張が受圧板から地山へ均等に分散させえるため、モルタル吹付面をコテで均平 に仕上げ受圧板の設置面積を増大し緊張力がア ンカー工本来の役割を充分に発揮できる様にし ました。 脆弱な地山での設計厚さを確保するため、モ ルタルの吹付量が設計の1.8倍以上費やしました。

4-2-3 アンカー本体の品質向上

アンカー施工後の地中の地すべり活動を監視する目的で「見えるアンカー」を155本の内4箇所に設置し、現在観測中の地表面変位計測や地中変位計測と共にアンカー周辺の地中変位計測機器として「地すべり地帯の精密なデータ分析要素」に貢献できました。


最後に

着工から完成に至るまで、工事全般に渡って、地域の皆様や、発注者及び関係機関のご協力のおかげで、無事に工期内で満足のできる、工事の完成が達成できました。私にとって初めての分野の工事で、予期せぬ出来事が連続し、戸惑いもありましたが、皆様のご協力のおかげで、完成する事ができました。


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