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技術論文

道交国(特改)第18-001-1号 国道493号地域活力基盤創造交付金工事

後世に悔いの残らない施工を目指して

宗崎 剛有限会社磯部組 宗崎 剛

写真1

1.はじめに

この工事は平成22年9月に着工し、工法検討による中止期間を挟んで、翌々年、平成24年1月に完成するという長丁場に及びました。
その途中、現場も佳境を迎えていたころのある日。ごめん・なはり線に乗り車内を見渡すと、フォトコンテストの入賞作品が展示されており、とりわけ私の目を引いたのはその中のひとつ。「百年目の再生」というタイトルの、私が担当していたこの現場で、石積みの作業風景を撮影した作品でした。「後世に悔いの残らないような施工」あるいは「時代のレイヤーを表現する」を目指し、日々奮闘していた私でしたので、住民の方々が同じような思いで見てくれていることに感激したことを覚えています。
今回、改めてそのことを思い起こしつつ、森林鉄道遺産への対策を中心として本工事を振り返りたいと思います。

2.工事概要

工事番号
道交国(特改)第18-001-1号
工事名
国道493号地域活力基盤創造交付金工事
請負金額
46,033,050円
着工
平成22年9月18日
完成
平成24年1月25日
施工延長L
176.3m
擁壁工L
67.2m
排水工
1.0式

3.工事の特性と課題

本工事の村道付け替え部は重要文化財に指定された小島橋(旧森林鉄道遺産)に隣接していましたが、設計委託の段階では未指定であった為、当初設計は小島橋橋台に配慮された計画となっておらず、工法の変更や関係機関との調整が必要となり、またそれに応じた施工が要求されることとなりました。

森林鉄道遺産「小島橋」小島橋に隣接した村道付け替え部
森林鉄道遺産「小島橋」小島橋に隣接した村道付け替え部

4.工事の流れ

着手〜中止〜再着手までの流れ
着手〜中止〜再着手までの流れ

@着手前検討会

工事着手前に設計を照査し、工程その他の社内検討会を行いました。実施設計では、小島橋橋台以外は取壊し、U型擁壁で取り合わせ道路を築造するようになっていましたが、出席者から「 景観及び文化財に配慮されたものに変更するように提案をしたほうが良いのではないのか」という意見が出され、社内での検討が始まりました。

着手前検討会

A関係機関からの要望

まもなくして、文化財の管理者である北川村から安芸土木事務所に対して、工法を説明してほしい旨の要望があり、その結果、文化財に隣接する構造物は、高知県文化財課から文化庁に詳細を報告する義務があり、文化庁の許可がなければ工事に取り掛かれない事が判明しました。
その際に出された高知県文化財課からの要望は以下のとおりでした。

a.掘削により文化財をむき出しにするのは非常に危険なので工法を変更し、 景観にも配慮してほしい
b.文化財の雰囲気を壊すことなく後世に悔いを残さないような施工をする
c.森林鉄道時代の形跡がうかがえるような構造物にする
d.「時代のレイヤー」を表現する
昭和初期の橋台、昭和中期の石積み、現代の場所打ち擁壁を階層として表現することで後世に伝わるようにする
※レイヤー
何かの構造や設計などが階層状になっている時、それを構成する一つひとつの階層のこと
e.現在の場所に石積みの階段を復旧してほしい

B要望に対する工法提案

小島橋は昭和7年に建造された構造物で、現在ではその構造等の資料がなく、橋台躯体や背面の構造が不明でした。そこで発注者と協議を重ねた結果、橋台背面の盛土を出来る限り残して橋台が自立する範囲で施工可能な逆T型擁壁を施工し、取り合わせ部分については、練石積と大型ブロックを施工することとし、その上で以下の如く提案をしました。

a.逆T型擁壁の前面には化粧型枠を用い、その意匠を布積みの擬石模様とする
b.練石積は昭和30年代に施工された古い石積みを再利用して施工する。この提案は作業する人達に大いに苦労をかける基となるのですが、結果的に出来上がったものは、「時代のレイヤー」を表現した構造物群となったと自負しています。

要望に対する工法提案

地元住民と文化財課から原位置での復旧を要望された階段ですが、復旧延長が半分ほどになってしまった為、そのまま復旧したのでは急勾配の階段となります。そこで、作業にかかる手間は何倍もかかることになってより高度な技術が必要となりますが、中央に踊り場を設け折り返すことで、旧階段と同一勾配のものとすることが出来ました。
また従来の階段は、はっきりいって見栄えも機能もさほど良くはなかったのですが、いくら「 復旧」といってもそこまで再現したのでは現代に生きる技術者としては失格です。そこで、剥き出しになっていた階段を石積みの内側に設け、踏面を豆砂利洗い出し仕上げとすることで滑り止め機能を加え、外観も機能も元あったものより向上させることが出来ました。

5.施工上の工夫・苦労

@取壊しに当たって

通常の土木工事で行う構造物取り壊しとは異なり、再生を前提とするため、石積みの撤去は慎重に行いました。

A石積みの苦労

まず、取り壊し前に石積みを洗浄し、人力で取り壊しながら機械掘削を並行して行いました。採取した石は付着していたコンクリートを取り除き、約600個に及ぶ石にはあらかじめ番号をつけて、一定方向に並べて保管することで識別をしやすくしました。

ところが、実際の施工に入ると、当初の目論見通りにはならず、番号どおり並べても合端がうまく噛み合いません。合端を隙間なく結合させる為には、個々の石を割ったり削ったりして調整するという作業が必要となりました。
しかし、現在ではそういった技術を持った石工は全国的にみても希少であり、日数を要してコツコツと作業を進めることのみが問題を解決する手段でした。特に階段の側面となる天端部には難儀をすることとなりました。現場で知恵を出し合った末にたどり着いた施工方法は、水糸に合わせた型紙を作製して、それに合わせて石を割り加工し微調整を繰り返す、という非常に手間隙のかかるものでした。

これらの石積み復旧作業に要した日数は50日。全体の個数が約512個ですから、1日平均10個しか出来ませんでしたが、結果、満足のいく出来栄えになったと思っています。

6.終わりに

幸いにも本工事は、平成24年度高知県建設工事優良施工者表彰において知事賞を受賞するという栄誉に浴することが出来ました。それもこれも、地元住民の皆さまや、監督職員を始めとした発注者の方々、関係機関各位、そして協力会社を含め作業に携わってくれた人たちのお陰だと感謝しています。
この稿を書くに当たり、「後世に悔いの残らないような施工」を目指した日々を思い起こし、改めて現代に生きる一人の土木技術者として、このような工事にかかわることが出来たことの喜びを噛み締めています。
拙い稿ではありますが、最後までお読み頂きありがとうございました。

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